グーグルが「Google Wave」で描く戦略 米国クラウド最前線

 BCNに記事で 弥生もクラウド化する記事を読んだ.

クラウドブームに沸く米国
 米国のIT業界を見渡すと、クラウド・コンピューティングクラウド・アプリケーション、クラウド・データセンター、クローン・クラウド、インター・クラウドなどの用語が氾濫している。これはソフトウエア、ハードウエア、各種サービスベンダーが雪崩を打ってクラウド事業に参入しているためだ。クラウドは米国のIT業界を席巻している。
 異彩を放つのがグーグルのビジネスモデルだろう。同社の目的を一言で述べるなら「SaaS(Software as a Service)のPPT(Personal Productivity Tool)分野における覇権」となる。
 「難しいセットアップやメンテナンスなどは雲(クラウド)の向こうに任せ、ユーザーはパソコンで仕事に専念する」という概念は、大雑把に言えば「SaaSの世界」に集約できる。
 SaaSにも様々な分野がある。セールスフォース・ドットコムが得意とする顧客管理ソフト(CRM)や、Aria Systemsが提供する請求・課金ソフト、MarketBrightの営業管理ソフトなど、その用途と種類は急速に増えている。グーグルの面白さは、SaaSのなかでもPPTと呼ばれる個人の生産性管理ツールに開発を集中させている点だ。

■PPTトップをめざすクラウド戦略
 現在、PPTのトップ企業として君臨しているのはマイクロソフトである。ワープロ表計算、プレゼンテーション、スケジュール管理、電子メール、チャット、ホームページ作成など、パソコンになくてはならない優れたツールを有料で販売し、圧倒的なシェアを誇っている。
 グーグルはPPTアプリケーションをインターネット経由で、しかも無料で提供している。もちろん、グーグルがPPTに集中するのは広告で賄える数少ない分野だからだ。数あるSaaSの中でもPPTは「一般消費者の目に触れる」「一般消費者の情報を取り扱える」という特徴を持つ。
 同社の戦略は「SaaS+PPT+広告=クラウド」という式で表すことができるだろう。
 グーグルは何億人、何十億人の一般ユーザーが毎日のように利用する検索やスケジュール管理、電子メールといったPPTソフトをインターネットで提供するために、世界中にデータセンターを建設している。また、PPTのトップになるため、マップなどのマッシュアップやプログラミング環境「Google App Engine」を強化している。
 その巨大なクラウド・データセンターを個人や法人ユーザーに貸すことで儲けるつもりはない。将来のソフトウエアベンダーは、電力会社やガス会社と同じように設備産業になるとグーグルは信じている。ここに同社のビジネスモデルが特殊だと指摘される1つの理由がある。

■PPTの最先端「Google Wave」登場
 Google Wave」(ベータ版)を公開した。この新しいコミュニケーションツールはインターネットを使った情報のやり取りや仕事の進め方に新しい可能性を開くことになる。
 Google Waveでまず目につく特徴は、インスタント・メッセージング(IM)に即時性と拡張性を加えたことだ。従来のIMでは、話したい相手を選び、メッセージを打ち込んで、送受信を繰り返す。これは一種の電子伝言板と考えればよい。
 Google Waveでは、自分が打ち込んだメッセージはリアルタイムで相手のパソコン上に表示される。それだけでなく、相手が入力中のメッセージに自分の意見を付け加えたり、削除や修正をしたりもできる。しかも、10人でも50人でも同時に利用でき、メッセージのやり取りから追加・修正・削除まですべてをビデオ録画のように記録することができる。
 相手が不在の場合は電子メールの代わりになる。また、文書や写真、ビデオだけでなくアプリケーションも共有できる。Google Waveを使えば、電話会議やビデオ会議の様子は大きく変わる.電子メールに書類を添付し、上司に決裁を求めるといった業務もGoogle Waveで格段に効率がよくなる。将来的にはUCT(ユニバーサル・コミュニケーション・ツール)の方向性を変えることになる.このツールがクラウド時代の本質を突いているからだ。

■今日の情報社会が抱える問題
 パソコンの登場で知識の蓄積コストは数万分の一というレベルに下がった。今、私たちの身の回りを見ると、仕事にせよプライベートにせよ、様々な情報がパソコンやサーバーに電子的に蓄積されている。パソコン時代を通じて人々は、紙から電子媒体へと知識を蓄積し直してきた。
 90年代にインターネットが登場する。これにより知識の伝搬コストも数万分の一へと下がっていった。現在までの約15年、私たちは知識をインターネットという「パソコンとサーバーと通信網の集合体」に移していった。
 ここで困ったことが起きた。底知れない情報が蓄積されたインターネットを自由自在に使いこなすツールがないのだ。
 いま、私たちの手にあるのは「検索」というたった1つの手段だけである。巨大な情報の宝庫を前にしながら、私たちはキーワードを打ち込み、ディスプレーに羅列されたリンク情報を一つひとつクリックして確かめるしか、知識を利用する方法がない。これではコストは下がっても、紙の世界と不自由さは変わらない。
 このインターネットにおける不便さを心底から実感しているのがグーグルにほかならない。Google Waveは、無数の人が1つの文章を同時に作成・修正・加工することでコミュニケーションしながら、しかも文書や動画、アプリケーションをプログラムレベルで共有・消費する。
 従来のPPTは、紙の時代をベースにしてきたが、Google Waveはインターネットを相手にしたPPTの世界を構築しようとしている。それはインターネットという雲のなかで、知識が作成され、蓄積され、消費されるという今の状況をまさに反映したものだ。同社が切り開こうとしているクラウド時代をGoogle Waveは垣間見せてくれる。

グーグルの狙いは、クラウド時代におけるSaaS-PPTのトップ企業だ。それは知識の宝庫となったクラウドを個人が自由自在に使いこなすツールを提供することにある。しかも、広告という収入源によって、無料あるいは廉価に提供しようとしている。ここにグーグルの戦略のユニークさと異質さが潜んでいる。 インターネットをより進化させるという点において他の追随を許さない戦略を展開していくかぎり、同社はクラウドビジネスの鍵を握るプレーヤーであり続けるだろう。

 クラウドも業務化が本格化してきた.